日本で見られる桜の話と品種の栞

日本で見られる桜は、固有種を含んだ10類の基本の野生種を基に、これらの変種を合わせて100種類以上の自生種があり、さらに、これらから育成された栽培品種が200種以上あり、あわせて300種類以上、分類によっては600種を越える種や品種があると言われています。早春から初夏まで、色々な品種が私たちを楽しませてくれて、桜を見ると、春を迎える気持ちの高まりとともにどこか心が和らぐ気がします。

色々な表情を持つ桜を、基本種を中心に、代表的な自生種や栽培種を以下のように整理してみました。そして次のページに桜の種類ごとの目次の表を作ってみました。目次のページにはサムネイルの写真付きの目次と写真なしの目次があります。写真付きの目次は写真を見て品種を探すことができますが、多くの画像を読むため時間がかかります。画像を読み込みたくない方は写真なしの目次をお選びください。 English page is here.

目次の表の中の学名や名前、写真をクリックをすると、個別の品種のページの詳しいデータが見られます。また、表の先頭の行の三角をクリックすると表の順番を変えることができます。

 

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全国各地の桜の名所や、桜について解説したYouTubeのビデオクリップはこちらからご覧になれます。

撮影した桜の写真については、木に展示されていた標識やインターネットで調べたデータ(特に、日本花の会様の桜図鑑http://www.hananokai.or.jp/sakura-zukan/ やwikipediaにはお世話になっています) をもとに、自分の感想も交えて整理していますが、時として間違いや勘違いもあるかもしれませんが、ご容赦ください。

桜の学名はCerasus (サクラ属)とPrunus(スモモ属)が使われますが、ここでは特に断らない限り、Cerasusを属名として説明しています。なお、 C. と略すこともあります。

ヤマザクラ群 ヤマザクラ (C. jamasakura)

Cherry var. Yamazakura/ ヤマザクラ
Cherry var. Yamazakura/ ヤマザクラ

日本に10種ある基本野生種の中で、ヤマザクラ群に属する、山桜(ヤマザクラ)大山桜(オオヤマザクラ)霞桜(カスミザクラ)大島桜(オオシマザクラ)熊野桜(クマノザクラ)の5種類が基本野生種になっています。クマノザクラはこれまで、ヤマザクラの1種とみなされていましたが、独立した種として認められ、また基本野生種と分類されています。

ヤマザクラは、その中で代表的な種ですが、同一地域の個体群内でも個体変異が多く、開花時期、花つき、葉と花の開く時期、花の色の濃淡と新芽の色、樹の形など様々な変異があります。 ヤマザクラは独立した種ですが、分類記載において多くの野生桜との混同も多く、野生桜を総じて山桜と呼ぶケースやカスミザクラやオオヤマザクラ(蝦夷山桜:エゾヤマザクラ)をヤマザクラと同種に見なして総称してヤマザクラと称するケースなどもあるようです。

古くからこの種をもとに、多くの栽培種も作られ、ヤマザクラ系と呼ばれますが、カスミザクラ、オオヤマザクラ、オオシマザクラを起源とするものも多く含まれているようです。また、栽培品種も多くの種が掛け合わされ、元になった野生種が特定できないものも多いようです。ヤマザクラの特徴を残す栽培種としては、琴平(コトヒラ)市原虎の尾(イチハラトラノオ)江北匂(コウホクニオイ)などがあります。

ヤマザクラ群 オオヤマザクラ (C. sargentii)

Cerasus sargentii/ Sargent's cherry/ オオヤマザクラ
Cerasus sargentii/ Sargent's cherry/ オオヤマザクラ

大山桜(オオヤマザクラ)は、本州では山桜(ヤマザクラ)霞桜(カスミザクラ)より標高の高いところに生息しており、北海道では平地でも一般的な山桜です。花は一重咲で色は淡紅色から紅紫色ですが、ヤマザクラやカスミザクラよりかなり濃い色なので、別名紅山桜(ベニヤマザクラ)や蝦夷山桜(エゾヤマザクラ)とも呼ばれています。

オオヤマザクラをもとに、作出された品種としては、兼六園に原木がある兼六園熊谷(ケンロクエンクマガヤ)奥州里桜(オウシュウサトザクラ)や、日本ではあまり見られませんが英国で作出され、欧州でよく栽培されているアーコレードなどがあります。

ヤマザクラ群 カスミザクラ ( C. leveilleana/C.verecunda)

Cerasus leveilleana/ Cherry Kasumizakura/ カスミザクラ
Cerasus leveilleana/ Cherry Kasumizakura/ カスミザクラ

霞桜(カスミザクラ)は、山桜(ヤマザクラ)よりも標高の高い位置に自生していて、ヤマザクラと同じように花が出るときに葉も同時に展開しますが、葉が新緑色になります。大島桜(オオシマザクラ)はカスミザクラの島嶼型と見られていますが、オオシマザクラの花柄や葉柄が無毛なことにより区別がされています。

カスミザクラも、ヤマザクラ、オオシマザクラと同じく栽培品種の元になってきましたが、ヤマザクラ、オオシマザクラと似ていることもあり、カスミザクラを元に作出されたと認められているものはあまり多くないですが、笹部桜(ササベザクラ)紅玉錦(ベニタマニシキ)などは、カスミザクラをもとに作出されたと言われています。

ヤマザクラ群 オオシマザクラ (C. speciosa)

Cherry var. Oshima/ オオシマザクラ
Cherry var. Oshima/ オオシマザクラ

大島桜(オオシマザクラ)は、ヤマザクラ群の中で霞桜(カスミザクラ)の島嶼型と言われ、伊豆諸島の大島に原木があります。染井吉野(ソメイヨシノ)をはじめ多くの園芸品種の親になっていることでも有名です。ただし、ソメイヨシノはもう一つの親である、江戸彼岸(エドヒガン)系と分類されています。花はソメイヨシノよりやや白色でソメイヨシノと同時かよりやや早めに開花しますが、個体差がじ若干あります。また、その葉は香りがよく静岡県松崎町などで栽培された葉が桜餅を包む葉として使用されています。

野生種のオオシマザクラは白色・一重咲きで、開花も中頃ですが、早咲きの寒咲大島(カンザキオオシマ)八重紅大島(ヤエベニオオシマ)などの栽培品種もあります。また匂いがよいことから、御座の間匂(ゴザノマニオイ)駿河台匂(スルガダイニオイ)(ただし、駿河台匂はヤマザクラ系ともされています)の香りの良い品種も作出されています。

オオシマザクラは多くの栽培品種の作出に使われていますが、オオシマザクラと他の種との種間雑種は、多くは里桜(サトザクラ)群に含まれ、オオシマザクラの栽培品種は呼ばれないようです。

ヤマザクラ群 クマノザクラ (C. kumanoensis)

Cerasus kumanoensis/ kumano cherry/ クマノサクラ
Cerasus kumanoensis/ kumano cherry/ クマノサクラ Young leaves 若葉

熊野桜(クマノザクラ)は、2018年に新種と判断された日本の紀伊半島南部が原産のサクラで、日本に自生する10種のサクラ属基本野生種のうちの一つに加えられました。ヤマザクラよりピンクが鮮やかでヤマザクラより早咲きです。

エドヒガン群(C. spachiana/ C. pendula)

Cherry var. edohigan/ エドヒガン
Cherry var. edohigan/ エドヒガン

江戸彼岸(エドヒガン)は日本の自生種で、名前の通り春の彼岸ごろに花を咲かせ、このエドヒガンの血を引く染井吉野(ソメイヨシノ)より早く花が開き始めます。花は薄紅色から白で一重、葉より先に花が咲くいわゆる姥桜です。

山桜(ヤマザクラ)と共にサクラの中では非常に長寿の種であることが知られており、日本三大桜で樹齢2000年を超えるといわれる山梨山高の神代桜、樹齢1500年を超える岐阜根尾の淡墨桜、樹齢1000年を超えると言われる福島三滝の滝桜は全てこのエドヒガン系と言われています。

花が多く咲き、また花が葉より先に展開することから多くの品種の母種として使われています。萼の付け根が丸く膨らんでいるため見分けやすいです。ソメイヨシノをはじめ、多くの栽培種が作られていますが、ほとんどが花が先に咲く姥桜のタイプです。

エドヒガン系の栽培品種は多いですが、ソメイヨシノの兄弟とも言われる小松乙女(コマツオトメ)、アメリカに渡ったソメイヨシノから作出され里帰りしたアメリカ、さらにアメリカから分離し新しい品種として認められ、今後、ソメイヨシノの後継品種と期待されている神代曙(ジンダイアケボノ)などがあります。また枝垂れるものとして八重紅枝垂(ヤエベニシダレ)なども有名です。

マメザクラ群 (C. incisa)

Fuji cherry/ マメザクラ
C. incisa Mamezakura  / マメザクラ

豆桜(マメザクラ)の名前の通り、樹高も大きくならず、また花も小ぶりです。富士山周辺や箱根に自生していたことから、富士桜(フジザクラ)、箱根桜(ハコネザクラ)とも呼ばれています。花は染井吉野(ソメイヨシノ)より少し早めに咲きます。

また近畿地方に自生する近畿豆桜(キンキマメザクラ)もマメザクラの仲間です。

樹高が大きくならないことから、家庭の庭木用の品種の作出等に使われています。マメザクラ系の品種としては、欧州でよく栽培されている、海猫(ウミネコ)冬桜(フユザクラ)がマメザクラ系の栽培品種とされています。他の系統の品種となっていますが、阿亀桜(オカメザクラ)小彼岸(コヒガン)などの小型の桜の作出にもマメザクラは使われています。

チョウジザクラ群(C. apetala)

Clove cherry / チョウジザクラ
Clove cherry / チョウジザクラ

丁子桜(チョウジザクラ)は、日本在来の野生種のひとつで、花びらは白からごく薄い紅色で、桜の仲間では花びらが小さい一方、萼筒が長く横から見ると丁字や丁子(クローブ)のように見えることから「ちょうじ」桜と呼ばれています。

チョウジザクラが関連した品種としては。高砂(タカサゴ)などがあります。

タカネザクラ群 (C. nipponica)

Kurile cherry / チシマザクラ
Kurile cherry / チシマザクラ

高嶺桜(タカネザクラ)は基本野生種の一つで、名前の通り、山に生えることが多く、山の山腹等に自生しています。花の時期は遅く、5月初旬ごろに開花期を迎えます。花の色は薄紅色から白色。花の芯に行くほど色が濃いのが特徴です。北海道に自生する千島桜(チシマザクラ)はタカネザクラの変種とされています。

ミヤマザクラ群 (C. maximowiczii)

Cerasus maximowiczii/ Miyama cherry/ ミヤマザクラ
Miyama cherry/ ミヤマザクラ

深山桜(ミヤマザクラ)は基本野生種の一つで、北海道から九州まで分布していますが、山の高地に自生し、葉が完全に展開してから白い花を咲かせます。

ヒカンザクラ群 (C. campanulata)

Taiwan cherry/ヒカンザクラ 
Taiwan cherry/ ヒカンザクラ

早咲きの桜で、その紅い花の色から緋寒桜(ヒカンザクラ)と呼ばれますが、彼岸桜(ヒガンザクラ)との混同を避けるためカンヒサクラとも呼ばれることも多くあります。ただし、寒桜(カンザクラ)をヒカンザクラと呼ぶこともあり、混同されることもあるようです。

東京でも早春(2月頃)から、濃い緋色の花を下向きに咲かせます。釣鐘上の花の形から campanulata の名前がついており、花はほとんど開きませんが、沖縄や原産地の台湾では、かなり花が開くそうです。

この種は、台湾原産ということもあり、日本の基本原種の10種には含まれていませんが、日本でも、この早咲きの性質を導入するため、多くの品種の親として使われいます。早咲きの品種で緋色又は紅色の花で下向きに咲く性質を持っている種はこの桜を親にしているものが多いです。

この種を親にしていて有名なものとしては、熱海早咲(アタミハヤザキ)河津桜(カワヅサクラ)阿亀桜(オカメサクラ)陽光(ヨウコウ)などがあります。

サトザクラ群(C. serrulata/ C. lannesiana)

ichiyou/ イチヨウ 一葉
ichiyou/ イチヨウ 一葉

大島桜(オオシマザクラ)を中心に山桜(ヤマザクラ)江戸彼岸(エドヒガン)霞桜(カスミザクラ)豆桜(マメザクラ)と種間雑種で作り出された栽培品種やその他の種間雑種で作られたものも里桜(サトザクラ)と呼びます。

桜を庭などに植えて栽培する歴史は平安時代にまで遡り、このころから品種の育成が行われ、人為的な交配や突然変異、野生のものからの選抜育成などが続けられた結果、200種以上のサトザクラが作り出されてきたと言われ、なかでも、オオシマザクラの影響は大きいと言われています。

桜の花を観賞するために改良されてきたため、花びらの数の多いものや、見栄えのするものを選んで作られた結果、八重咲き、枝垂れ咲き、菊咲きなど、また一重のものでも大輪のものが多く作られてきました。

色も、五色の桜と呼ばれるように、白、淡紅、紅、紫、黄緑など様々で、また咲き始めから散るまでに色が遷ろうものなど、様々な姿を楽しむことができます。咲く時期は、染井吉野(ソメイヨシノ)と同じか遅いもののも多く、また咲いている期間も長く、長く楽しめるものも多いです。

有名なものだけでも、白妙(シロタエ)(白、八重)、太白(タイハク)(白、一重、大輪)、一葉(イチヨウ)(淡紅、八重)普賢象(フゲンゾウ)(淡紅、八重)、梅護寺数珠掛桜(バイゴジジュズカケザクラ)(紅、菊咲き)、関山(カンザン)(濃紅、八重)、八重紫(ヤエムラサキ)(紫紅、八重)、長州緋桜(チョウシュウヒザクラ)(紫紅、半八重)、鬱金(ウコン)(黄緑、八重)、御衣黄(ギョイコウ)(黄緑色、八重)など、数え切れないほどあります。

カラミザクラ群(C. pseudo-cerasus)

Chinese sour cherry/ カラミザクラ
Chinese sour cherry/ カラミザクラ

唐実桜(カラミザクラ)は、中国原産で、実は食用になりますが、酸味が強く、現在の食用品種は、ほとんどが西洋実桜(セイヨウミザクラ)が使われています。カラミザクラは花期が早いので、早咲き品種の改良に使われます。

カラミザクラを使った栽培品種としては、敬翁桜(ケイオウザクラ)という名前でも知られ、切り枝で出荷される東海桜(トウカイザクラ)や春秋の二度咲きする小福桜(コブクザクラ)などがあります。

その他(Others)

Cherry, Wild Himalayan cherry ヒマラヤザクラ
Cherry, Wild Himalayan cherry ヒマラヤザクラ

桜と呼ばれているもので、原産地が日本から遠く離れていたりして、上の分類に入らないものを、ここに整理しています。

名前の通りヒマラヤ山脈を原産として冬に開花する、ヒマラヤザクラ、さくらんぼの収穫を目的とした食用種となる西洋実桜(セイヨウミザクラ)などがあります。

また、桜の近縁ですが、中国原産で低木の、庭桜(ニワザクラ)(Chinese bush cherry)、庭梅(ニワウメ)(Japanese bush cherry)があります。また、アーモンドも桜に近い種類で淡紅の5弁の桜に似た花を咲かせます。

また、日本の山野に自生し、桜ほど目立つ花は咲きませんが、犬桜(イヌザクラ)上溝桜(ウワミズザクラ)も近縁種です。

桜の品種の写真ありの目次はこちらから。写真なしの目次はこちらから。

写真付きの目次は写真を見て品種を探すことができますが、多くの画像を読むため時間がかかります。画像を読み込みたくない方は写真なしの目次をお選びください。

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